『自薦 THE どんでん返し』を読んだ その3

前回 → 『自薦 THE どんでん返し』を読んだ その2

感想もついに最後。
これで終わりかと思うと少しさびしいような楽しみのような。
とりあえず残り二話の感想と読んで思ったことをつらつら書いていく予定です。
取り扱うのは以下の二作品。

『カニバリズム小論』 法月綸太郎
『藤枝邸の完全なる密室』 東川篤哉

五話目 『カニバリズム小論』 法月綸太郎

タイトルと衝撃的な書き出しが印象の五話目。
内容は自由気ままな生活を送る男の元に、小説家で名探偵と称される作家が訪れる。
ある衝撃的な事件についての見解を男に求めるという話。
表題にあるとおり、議論はカニバリズムについてのものであり、犯人も被害者も確定しており、トリックがあるわけでもない、ただ一点不可解な犯行の動機について迫っていく。
途中から始まる世界各国にわたる食人文化の解説に、よくある解説が多い割りに事件にはあんまり関係ない系の短編なんじゃないか、と不安を感じつつ読み進めたが、最後の「どんでん返し」の部分で一変。
それまでに語った小論が、実は内容そのものではなく語る男自身を描くために割かれた部分であるということを察して愕然とした。
ネタバレのさじ加減が難しいけど途中でしばしば挟まる作家のどこか物憂げな表情の変化にも注目して読んで見ると最後の展開でああ、と思うのと同時にそれまでどこかあいまいに書かれていた二人の周辺がぱっと開かれていくような衝撃を覚えるはず。
始めちょっと合わないかなと思っていただけに最後に行くまでの間に評価が一変するという稀有な体験をした作品だった。

六話目『藤枝邸の完全なる密室』 東川篤哉

とある資産家の甥っ子である主人公が遺産目的で完全犯罪を試みるという話。
相手は叔父である資産家。
とある理由から主人公が必死に犯行をごまかそうとする話なのだが、その姿が実に滑稽。
最初に登場したときには大企業のエリートだの、頭の切れるだのやたら持ち上げられる主人公だが、犯行前の準備段階でボロを出しかけるのに始まり、ことあるごとに情けない声を上げたり、慌てふためいて階段から転げ落ちたりと出来る会社員のイメージはどこへやら終始挙動不審な態度。
犯行後の緊張状態を表したある意味リアルな反応といえるのかもしれないが、時折見せる冷静な行動から、相手に振り回されて慌てふためくというやり取りが続く。
どんでん返しとしても主人公が必死に元通りの計画に乗せようとするのをあざ笑うかのように意外な出来事が起こり続け、読者の予想を裏切っていくというもの。
特に一番最後の主人公の言葉に対して返された言葉に、なんと言うか、笑いながら泣くような気分になる。
と、主人公にばかり注目してしまったが、話としてもところどころに複線が挟まれており、終盤あっとなる仕掛けもありと、一つの小説として十分に楽しめる作品だった。

なんかこの金持ちをアレする感じ、見覚えがあるなと思ったら、「謎解きはディナーのあとで」の作者だった。
原作が少し読んでみたいかも。

以上で六作品すべて終了。
書き終えた後に本の最後についている解説も見たけどこっちも面白いのでお勧め。
というかここに書かれている感想?より的確に内容を評しているのでネタバレなんて気にしないぜという人はぜひ読んでみて欲しい。
ともあれ、始めのほうは少し「どんでん返し」の考え方が違うのかな。
と不安に思った部分もあったものの全体を通してみると、そうくるか、という予想外な話を詰め込んだ短編集でした。
裏テーマを上げるなら「狂人」とかそのあたりかなー。
おどろおどろしい重たい本格長編も面白いけど時にはこういうすっと読んで、あっと驚ける本もいいかもしれない。
全部読んだ上でお勧めをあげるとしたら『蝶番の問題』と『カニバリズム小論』の二つ。
前者は手記中の複線のちりばめられ方と話のひっくり返りっぷりが見所。後者は男の長い高説に隠された本当の意味が明かされたあたりの感覚がびりびりくる感じが割りとお気に入り。
「どんでん返し」の推理小説というと割りと叙述トリック的な読者をだます系のものを想像していたけど、そこにとらわれない幅広い範囲を集めた短編集だな、と感じました。

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