『そして誰もいなくなる』を読んだ

早速読み返したので軽く感想をば。

そして誰もいなくなる 今邑彩

タイトルからもなんとなく察しのつくとおり、本作は、かの名作『そして誰もいなくなった』を参考文献として最大限リスペクトした推理小説。
とはいえ単に舞台を日本にしただけというわけではなく、時代、事件、登場人物にいたるまでほとんど別物。
『そして誰もいなくなった』が複数の視点がめまぐるしく変わりながら生き残るためのサバイバルといった流れになっていくのに対して、本作は同じように複数の登場人物の視点に切り替わりつつそこに多数の伏線やミスリードを挟み込んでいって真相までたどり着くという流れ。
作中劇として登場する『そして誰もいなくなった』についても本作で軽い説明と本作の筋となるあるキーワードに関しては一章で触れられるので読んでいなくてもわからなくなるという場面はほぼない。
しかしながら読み終わってみると本作が『そして誰もいなくなった』を強く意識して書かれており特に終盤の流れに関しては読み終わっているかどうかで受けるショックが結構変わってくると思う。
というわけで以下簡単な概要と感想。

舞台はとある女子校。
物語の主人公である江島小雪は演劇部の部長で学園の記念式典で『そして誰もいなくなった』を上演することとなる。
しかし舞台中、最初に死ぬ役だった生徒が毒を飲み干して実際に死んでしまう。
当然劇は中止で、その後警察等が駆けつけてきて捜査が始まるがあくる日、また別の生徒がこれまた脚本どおりに死んでいるのが発見されるという流れ。
原作と大きく異なるのは誰の力も借りることの出来ない孤島でなく、ごく一般的な日本の街となっている点。
そのため序章に当たる一章では様々な人物が登場する。
この時点で本作にかかわる登場人物がすべてそろうというのにいかにも原作らしい。

その後は見立て連続殺人となった事件の真相を追い求めるべく話は進んでいくのだが、そこに関しても抜かりはなく、前述の主人公を始めとして、女生徒に人気のある活発な女教師、いかにも根暗だが時折鋭い発言をする男教師、切れ者な雰囲気を漂わせる老刑事、その相棒で熱意のある若い刑事という推理もので探偵役を務めてそうな面子が勢揃い。
そして終盤、とある作戦から物語の全貌が明らかとなり、そこからさらに驚きの展開が待っている。

多少ネタバレになってしまうが本作では連続殺人で事件が終わらない。
むしろここから本当の真相が明らかになるという構成が個人的に好き。
そこから先のいわゆる真犯人当てというか独白がこの作品が『そして誰もいなくなった』の単なるリスペクトではない、この作品らしさをあらわしていると思う。
とまあ、読みやすく一気に読めてしまう良作なのだが個人的に気になる点をあげてみる。
仕掛けとして作中に多数のミスリードやら伏線やらが張り巡らされており、何度か見直したくなるのだが、犯人や殺害方法についての伏線がやや弱い。
そのため明かされる登場人物の裏に驚かされる一方、実際の事件のほうはやや衝撃が薄く、なんというかそれで犯行できるんだ!?という感じ。
なので本作を本格推理物としてトリックやら謎解きやらを楽しみにして読むと多少肩抜かし感というか理不尽な点を感じることもあるかもしれない。
とはいえ六章から始まる事件解決編のわくわく感、その後始まる事件の真犯人当ては原作のほうで軽く触れるにとどまった要素を一つのテーマとして形にした作品である。

以上、軽い感想でした。
前に読んだときにちょうど原作のほうを読んだ直後だったので、すげえというその場の勢いみたいな思い出補正がかかってたかなとか思ったけど、今回も十分楽しめました。
改めて、読み返すとやっぱり一章の情報量というか詰め込みっぷりが半端ない。
登場人物も結構割り切ってあって、原作ではある程度人柄に触れている被害者もこっちでは軽い概要でさくっと退場するので事件の数の割りに人数が少なく感じるのも楽に読めるポイントだろうか。
最後まで行くと原作とはまた違った衝撃を受けることになるので原作でおおう、となった後、本作で憂鬱になるのが一番楽しめるコースだと思います。

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